総額100兆ドン超・第3波IPOがベトナム市場を揺らす──過去との違いはどこか
こんにちは、ベトナム資産形成研究所のリンです。
ハノイから今日もベトナム株式市場の話をお届けします。
ベトナム証券市場に、再び「IPOの波」が押し寄せています。CafeFの報道(出典:CafeF・2025年5月)によれば、総額100兆ドン(約6,000億円規模)を超える大型案件群が水面下で準備を進めており、市場関係者の間では「第3波」と呼ばれています。
ただし、注目すべきは規模そのものよりも「構造の変化」です。第1波(2000年代前半の国営企業民営化ラッシュ)、第2波(2017〜2018年の不動産・金融ブーム期)と比較したとき、今回の第3波はどのような特徴を持つのか。その違いを整理することが、冷静な判断の出発点になります。
【ポジティブ要因】
- 【大型案件の多様化】今回のIPO候補群には、エネルギー・テクノロジー・物流分野の企業が含まれており、不動産・銀行への集中が著しかった第2波と比べ、セクター分散が進んでいます。これはVN-Index全体の産業構成バランス改善につながる可能性があります。(出典:CafeF・2025年5月)
- 【制度環境の整備進行】ベトナム証券委員会(SSC)は2023〜2024年にかけて開示規制の強化・投資家保護規則の改定を実施しており、過去のIPOブームで問題視された情報の非対称性が一定程度是正されつつあります。(出典:ベトナム財務省・SSC公表資料)
- 【FTSEエマージング昇格審査との時間的重なり】FTSEラッセルは2025年9月に次回の市場分類審査を予定しています。大型優良企業の上場増加は、外国人投資家にとって市場の「深度」向上と映る可能性があり、機関投資家の関心を引き寄せる文脈として機能します。
【リスク要因】
- 【流動性の分散・既存銘柄への影響】大型IPOが相次ぐと、市場全体の資金が新規案件に吸収され、既存の中小型株から資金が流出するリスクがあります。過去の第2波(2017〜2018年)でも、IPOラッシュ後に中小型株の出来高が著しく低下した局面がありました。
- 【公募価格の妥当性検証困難】ベトナムでは非上場企業の財務情報開示が依然として限定的です。IPO公募価格が実態の企業価値と乖離するリスクは、制度改革後も完全には排除されていません。(出典:SSC・開示規制改定報告書2024年)
- 【マクロ環境の不確実性】米中貿易摩擦の再燃・世界的な金利環境の変動は、外国人投資家のリスク許容度に直接影響します。IPOラッシュが進行する中でグローバルリスクオフが発生した場合、公募後の株価形成が不安定になる可能性は排除できません。
【今後の焦点】
- 【各案件の財務情報開示の質と透明性】公募価格算定の根拠・監査法人の独立性・主幹事証券会社の評価体制が、投資判断の前提条件として問われます。
- 【FTSE昇格審査との連動性】2025年9月のFTSE審査結果が、第3波IPOへの外国人資金流入ペースを左右する重要な外部変数となります。
ハノイから、率直にお伝えします
ベトナム証券業界で観察してきた立場から、率直にお伝えします。
「IPOの波」という言葉は、市場参加者の期待感を高める一方で、過去の経験から慎重さも求められます。2017〜2018年の第2波では、公募直後に高値をつけた銘柄が、その後1〜2年で公募価格を大幅に下回るケースが複数ありました。規模の大きさは、それ自体では投資の根拠にはなりません。
今回の第3波が過去と異なるとすれば、それは「制度の成熟度」と「セクターの多様性」にあります。ただし、制度が整備されたことと、個別案件が適正に評価されることは別の話です。── 私はそう思います。
日本人投資家が知っておくべきこと
日本の個人投資家がベトナムのIPO案件に直接参加することは、現状の制度上、外国人投資家枠(FOL)の制約や証券口座の開設要件から、容易ではありません。現実的な接点は、上場後の二次市場での取引、またはベトナム株ファンド経由のアクセスが中心となります。
一方で、IPOラッシュがVN-Index全体に与える構造的影響──流動性の分散、新興セクターの台頭、指数構成の変化──は、ファンド経由で間接保有する投資家にも無関係ではありません。特に、どのセクターの企業が新たに上場するかは、ベトナム経済の「成長の質」を読む手がかりになります。
数字の大きさに引きずられず、「どの企業が」「どのような財務状態で」「何を目的に」上場するのかを確認する習慣が、ベトナム市場との長期的な付き合い方の基本だと考えます。
派手な売買推奨はしません。鮮度よりも、ブランドを。持続可能性を、最優先に。
これが、ハノイから皆様にお届けする編集姿勢です。
ハノイから、また次の記事でお会いしましょう。
── ベトナム資産形成研究所・編集部(執筆:リン)
