ベトナム株式市場には、3つの取引所が存在することをご存じでしょうか。
ホーチミン証券取引所(HOSE)、ハノイ証券取引所(HNX)、そして店頭市場のUPCoM。それぞれに上場基準や流動性、投資家層が異なります。
本記事では、ベトナム株への投資を検討される日本の個人投資家の方向けに、3つの市場の違いと特徴を整理してお届けします。
なお、本記事は事実報道です。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
1. HOSE(ホーチミン証券取引所)──ベトナム株のメインステージ
基本情報
HOSE(Ho Chi Minh Stock Exchange・ホーチミン証券取引所)は、ベトナム最大の株式取引所です。2000年7月に正式に取引を開始しました。所在地はベトナム南部のホーチミン市です。
当初の取引銘柄はわずか2銘柄(REE、SAM)からのスタートでしたが、現在では数百社の主要企業が上場する、ベトナム経済を代表する取引所に成長しています。
(出典:HOSE公式・kiemtienblog.com)
規模・データ(2024年末時点)
HOSEの規模を示す主要数値は以下の通りです。
- 上場銘柄数:393銘柄(2024年12月31日時点)
- ETF:16銘柄
- 閉鎖型ファンド:4銘柄
- カバードワラント(CW):114銘柄
- 上場証券総数:168.54億超
- 上場時価総額:1.67百万十億VND(約10兆円規模)
(出典:HOSE公式・anfin.vn 2024年データ)
上場基準
HOSEへの上場には、3つの取引所の中で最も厳しい基準が設けられています。主要な要件は以下の通りです。
- 一定水準以上の自己資本要件
- 営業実績:直近2年連続で黒字
- 情報開示:厳格な開示義務
- 株主構造:一定の流動性を担保する基準
具体的な数値基準については、ベトナム証券委員会(SSC)およびHOSE公式の最新ガイドラインをご確認ください。これらの基準は、市場環境の変化に応じて改定されることがあります。
(出典:HOSE公式・State Securities Commission)
主要銘柄(事実列挙)
HOSEには、ベトナムを代表する大手企業が上場しています。主要な銘柄として以下が挙げられます。
- VIC(Vingroup・複合コングロマリット)
- VHM(Vinhomes・不動産大手)
- VCB(Vietcombank・国営銀行)
- BID(BIDV・国営銀行)
- HPG(Hoa Phat Group・鉄鋼大手)
- MWG(Mobile World・小売大手)
- FPT(FPT Corporation・IT大手)
- MSN(Masan Group・消費財大手)
これらの大型銘柄が、ベトナムの代表的な株価指数であるVN-IndexやVN30の構成銘柄となっています。
投資家層の特徴
HOSEは、ベトナム株式市場の中で最も機関投資家比率が高く、外国人投資家の取引も活発です。1日の平均取引高もベトナムの3市場の中で最大であり、流動性が高い銘柄が多く存在しています。
FTSE Russellによるベトナム市場の新興国市場昇格(2026年9月21日発効)に伴うパッシブ追跡資金の主な対象も、HOSE上場の大型銘柄が中心となります。
(出典:FTSE Russell公式)
2. HNX(ハノイ証券取引所)──中堅・成長企業の場
基本情報
HNX(Hanoi Stock Exchange・ハノイ証券取引所)は、ベトナム第2位の株式取引所です。2005年3月に正式に開設されました。所在地はベトナム北部の首都ハノイです。
HNXは、HOSEに比べて中堅企業や成長企業の上場が多いのが特徴です。当初は、HOSEで上場できない企業や、より柔軟な情報開示を選ぶ企業の受け皿として機能してきました。
(出典:HNX公式・kinhtevadubao.vn)
規模・データ
HNXの主要数値は以下の通りです。
- 上場銘柄数:約340銘柄
- 時価総額:HOSEより小規模
- 1日の取引高:HOSEに比べて中程度
- 主要な企業層:中堅・成長企業
(出典:HNX公式)
上場基準
HNXの上場基準は、HOSEに比べてやや緩やかに設定されています。中堅・成長企業の資金調達を支える役割を果たしている取引所です。
具体的な数値基準については、HNX公式の最新ガイドラインをご確認ください。
(出典:HNX公式)
主要銘柄(事実列挙)
HNXには、以下のような銘柄が上場しています。
- SHB(Saigon Hanoi Bank・銀行)
- PVS(PetroVietnam Technical Services・石油サービス)
- CEO(CEO Group・不動産)
- IDC(IDICO・産業団地)
投資家層の特徴
HNXは、HOSEに比べて個人投資家の比率が高いことが特徴です。流動性は中程度で、HOSEほどの厚みはありませんが、UPCoMよりは活発な取引が行われています。HNX独自の株価指数として、HNX-IndexおよびHNX30が算出されています。
3. UPCoM(店頭市場)──上場予備軍と多様な企業群
基本情報
UPCoM(Unlisted Public Company Market)は、未上場の公開企業向けの店頭市場です。2009年6月に取引を開始しました。運営はHNXが担当しています。
UPCoMは、HOSEやHNXへの正式上場前の「予備市場」として位置づけられています。一方で、上場基準は最も緩やかなため、3市場の中で最も多くの企業が登録されており、規模・性格・情報開示の質に大きな幅があるのが特徴です。
(出典:UPCoM/HNX公式・vnsc.vn)
規模・データ
UPCoMの主要数値は以下の通りです。
- 登録銘柄数:約900銘柄超(3市場で最多)
- 時価総額:HOSEより小
- 流動性:銘柄により大きな差
- 性格:多種多様な規模・業種の企業
(出典:HNX公式・vnsc.vn)
上場基準
UPCoMの登録基準は、3市場の中で最も緩やかです。情報開示の要件もHOSE/HNXより限定的で、HOSE/HNXへの上場前の予備市場、または条件を満たさない企業の受け皿としての役割を担っています。
(出典:vnsc.vn)
主要銘柄(事実列挙)
UPCoMには、以下のような企業が登録されています。
- BSR(Binh Son Refining・石油精製)
- ACV(Airports Corporation of Vietnam・空港運営)
- VEA(Vietnam Engine and Agricultural Machinery・機械)
大型銘柄から、小型・低流動性の銘柄まで、規模が大きく異なる多様な企業がUPCoMに登録されています。
投資家層の特徴と注意点
UPCoMは、3市場の中で個人投資家の比率が最も高く、機関投資家の取引比率は相対的に低い傾向があります。また、銘柄ごとの流動性に大きな差があり、ほぼ取引が成立しない銘柄も少なくありません。
UPCoM Premiumという制度もあり、UPCoM登録銘柄の中で財務状況や情報開示が一定水準以上の銘柄が選定されています。
(出典:vnsc.vn・kiemtienblog.com)
4. 3市場の比較表──一目で分かる構造
ここまでの内容を、表形式で整理します。
| 項目 | HOSE | HNX | UPCoM |
|---|---|---|---|
| 設立 | 2000年7月 | 2005年3月 | 2009年6月 |
| 所在地 | ホーチミン市 | ハノイ | HNXが運営 |
| 上場銘柄数 | 約393銘柄 | 約340銘柄 | 約900銘柄超 |
| 時価総額規模 | 最大 | 中規模 | 小〜中規模 |
| 流動性 | 高 | 中 | 低〜銘柄により差 |
| 外国人比率 | 高 | 中 | 低 |
| 情報開示 | 厳格 | 標準 | 限定的 |
| 上場基準 | 厳しい | 標準 | 緩やか |
| 主要指数 | VN-Index・VN30 | HNX-Index | UPCoM-Index |
| 主要銘柄 | VIC・VHM・VCB等 | SHB・PVS等 | BSR・ACV等 |
(出典:HOSE・HNX・UPCoM各公式・vnsc.vn・anfin.vn)
表からも分かる通り、HOSEは「規模・流動性・情報開示」の3点で最も整備されており、ベトナム株のメインステージとして機能しています。HNXは中堅・成長企業の場、UPCoMは多様な規模の企業が登録される予備市場という役割分担になっています。
5. 日本人投資家の留意点──6つの注意事項
日本の個人投資家がベトナム株式市場での投資を検討する場合、押さえておくべき留意点が複数存在します。本セクションでは、特に重要な6つの留意点を整理します。
留意点1:流動性リスク
ベトナム3市場の中で、流動性は明確な差があります。
HOSEの大型銘柄は流動性が高く、売買が比較的容易です。一方、HNXの中堅銘柄では、銘柄により売買の困難さが生じる場合があります。UPCoMの低流動性銘柄では、希望価格での約定が難しく、売却したくても買い手がつかない場合や、スプレッド(売買価格差)が広い場合もあります。
初心者の方には、まずHOSEの主要銘柄を中心に、市場の構造を理解することが推奨されています。
留意点2:情報開示の差
3市場では情報開示の質に大きな差があります。
HOSEは英語での情報開示が比較的充実しており、海外の機関投資家も取引対象としています。HNXは標準的な開示水準ですが、英語情報は限定的です。UPCoMでは、ベトナム語での開示すら限定的な銘柄が一部存在します。
日本語での情報入手は、いずれの市場でも基本的に困難であり、投資前の情報収集には英語またはベトナム語の能力、または信頼できる情報源(現地証券会社、専門メディア等)が必要です。
留意点3:為替リスク(VND/JPY)
ベトナム株式の取引はベトナムドン(VND)建てで行われます。日本円ベースのリターンを考える場合、為替変動が損益に大きな影響を与えます。
VNDは管理変動相場制で、緩やかな下落傾向にあります。仮にVND建てで利益が出ていても、円高VNDになれば円換算の利益は目減りする可能性があります。逆も同様です。
通貨ヘッジの困難さも、ベトナム株投資の特徴の一つです。
留意点4:外国人保有制限(Foreign Ownership Limit・FOL)
ベトナム株式市場には、外国人投資家による株式保有上限(FOL・Foreign Ownership Limit、現地では「Foreign Room」と呼ばれます)が設定されています。
業種別の主な保有上限は以下の通りです。
- 一般銘柄:49%上限
- 銀行業:30%上限
- その他規制業種:業種により異なる
外国人保有比率がすでに上限に達している銘柄(Foreign Roomが満杯)では、新規の外国人投資家による市場での購入は困難です。例えばMWG等は、外国人保有上限が満杯の状態が続いていることが知られています。
(出典:State Securities Commission・各社公式IR)
留意点5:取引時間と休場日
ベトナム株式市場の取引時間は以下の通りです。
- 取引時間:現地時間 9:00-15:00
- 日本時間:11:00-17:00(時差2時間)
- 取引曜日:月曜〜金曜
日本の祝日とは別に、ベトナム独自の祝日があります。特に注意すべきは、ベトナム最大の祝日である「テト(旧正月)」で、毎年1〜2月に約1週間以上の長期休場となります。年により日付が変動するため、事前確認が必要です。
留意点6:税制とコスト
ベトナム株式の取引には、各種コストが発生します。具体的には、取引手数料、売却時の税金、配当課税などが含まれます。日本人投資家の場合、日越租税条約の適用や日本国内での申告など、複雑な税務処理が伴います。
これら税制やコストの詳細については、投資を検討される際に、税理士や現地証券会社にご確認いただくことをお勧めします。
6. 編集員リンの観察
私が証券会社で働いていた頃、日本人のお客様から「ベトナムには3つの市場があるんですね」と驚かれることがよくありました。
東京証券取引所のような単一市場をイメージされる方が多いのですが、ベトナムでは市場ごとの特性が大きく異なります。HOSEのメインステージ、HNXの中堅企業の場、UPCoMの多様な企業の集まり──この3市場の構造を理解することが、ベトナム株を学ぶ第一歩であると、── 私はそう思います。
特に日本の個人投資家の方にお伝えしたいのは、まずHOSEの主要銘柄から市場の動きを観察するのが、最も負担の少ない学び方であるということです。情報開示が充実しており、流動性も比較的高く、ベトナム経済の主要なテーマがHOSE上の主要銘柄に反映されているためです。
2018年に大学2年生だった私が、いまベトナム株速報社の編集員として、FTSE新興国昇格を控えたベトナム市場のこの瞬間に立ち会っています。それは、私自身にとっても、ハノイで生まれ育った一人の若者として、特別な意味を持つ経験です。
明日以降の動向についても、引き続き事実に基づいた観察をお届けします。
── リン
7. まとめ
本記事では、ベトナム株式市場の3つの取引所(HOSE・HNX・UPCoM)の違いと特徴を、日本の個人投資家の方向けに整理してきました。
ポイントを整理すると、以下の通りです。
- HOSE:ベトナム株のメインステージ。流動性・情報開示・規模で最も整備
- HNX:中堅・成長企業の場。HOSEより緩やかな上場基準
- UPCoM:店頭市場・上場予備軍。最多の登録銘柄数だが流動性に大差
- 日本人投資家は流動性・情報開示・為替・FOL・取引時間・税制の6点に留意
- 初心者にはHOSEの主要銘柄から学ぶことが推奨される
3市場の特徴を理解することは、ベトナム株式投資の第一歩です。次回は、ベトナム株式市場の代表的な指数(VN-Index・VN30など)について、より詳しく解説する予定です。
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ベトナム株式市場のFTSE新興国昇格について、詳しくは以下の記事もご参照ください。
「ベトナム株式市場、FTSE新興国市場昇格が確定──2026年9月21日発効・60億ドル流入予測」(2026年5月8日公開)
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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
本記事は、編集員リンおよび編集部による独自の調査・分析・見解を、事実報道として提供するものです。本文中の銘柄言及は、市場の構造を解説する目的での事実報道であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
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──ベトナム株速報社・編集部
(執筆:リン)
2026年5月10日

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