こんにちは、ベトナム資産形成研究所のリンです。
ハノイから今日もベトナム株式市場の話をお届けします。
「VNM(Vinamilk)を買おうとしたら、買えなかった」「FPT(FPT Corporation)に投資したいけれど、証券会社で『現在お取扱いできません』と言われた」──私のところには、日本人投資家の方から、こうしたご相談が時々届きます。
これは、ベトナム株式市場特有の「FOL(Foreign Ownership Limit・外国人保有上限)」という構造的制約によるものです。日本株市場には基本的に存在しない、ベトナム株を理解する上で避けて通れない論点です。
本記事では、FOLとは何か、なぜこの制度があるのか、満杯になると何が起きるのか、そして日本人投資家にとってどのような影響があるのかを、現地ハノイから整理してお届けします。
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これが、ハノイから皆様にお届けする編集姿勢です。本記事は、FOLという構造的制約を「光と影」の両面から、客観的に整理することを目的としています。
なお、本記事は事実報道です。特定の銘柄や証券会社の売買を推奨するものではなく、FOLという制度の構造を客観的に解説するものです。FOL状況は日々変動するため、最新情報は各証券会社・公的情報源でご確認ください。
1. そもそも、FOL(外国人保有上限)とは何か?
FOLの基本定義
FOL(Foreign Ownership Limit)とは、ベトナム株式市場に上場する各企業について、外国人投資家が保有できる発行済株式数の上限を定めた制度です。日本語では「外国人保有上限」または「外国人持株比率上限」と訳されます。
たとえば、ある企業のFOLが49%と設定されている場合、外国人投資家全体で保有できる株式数は発行済株式の49%が上限です。この上限に達した状態を「FOL満杯」(FOL Full)と呼びます。
FOLが設定されている範囲
- HOSE(ホーチミン証券取引所)上場銘柄
- HNX(ハノイ証券取引所)上場銘柄
- UPCoM(未上場公開企業市場)銘柄
つまり、ベトナム上場銘柄のほぼ全てにFOLが適用されます。
FOL率の主な区分(2026年5月時点)
FOL率は業種・個別銘柄により異なりますが、代表的な区分は以下のとおりです。
- 銀行業:30%(特に厳格)
- 一般非銀行業:49%(多くの業種)
- 戦略的業種:0%〜49%(個別設定・運輸・通信等)
- 一部緩和銘柄:51%〜100%(企業判断による)
(出典:ベトナム証券委員会(SSC)・各企業IR・2026年5月時点)
日本株市場との根本的な違い
日本株市場には、原則として外国人保有上限という概念はありません(放送業など一部例外あり)。日本人投資家でも外国人投資家でも、自由に株式を売買できます。
これに対して、ベトナム株式市場では、外国人投資家の保有が法令によって明確に制限されています。これは、ベトナム経済の構造的特徴の一つです。
2. なぜベトナムにFOL制度があるのか?
制度の歴史的背景
ベトナムのFOL制度は、2000年7月28日のホーチミン証券取引所(HOSE)開場以来、段階的に整備されてきました。当初は外国人保有上限がさらに厳しく設定されていましたが、ベトナム経済の発展、外国直接投資(FDI)誘致政策、WTO加盟(2007年)等の流れの中で、徐々に緩和されてきました。
FOL制度の3つの目的
FOL制度には、構造的に3つの目的があると整理できます。
- 目的1:国家戦略産業の保護──銀行・通信・運輸・エネルギー等の重要産業を、外国資本による完全支配から守る
- 目的2:経済の安定性確保──急激な外国資本流入・流出による株式市場の不安定化を防ぐ
- 目的3:国内資本市場の段階的発展──ベトナム国内投資家層を育成しながら、外国資本との均衡を保つ
これらは、新興国が資本市場を発展させる過程で広く採用されてきた政策手法の一つです。中国の「QFII」(適格外国機関投資家制度)、インドの「FII/FPI」制度、韓国の過去の外国人保有制限等、新興国の資本市場史を見ると、同様の制度が段階的に導入・緩和されてきた歴史があります。
ベトナム政府の長期方針
ベトナム政府は、長期的にはFOL制度の段階的緩和を目指しています。特に、FTSE Russellによる新興国市場昇格(2026年9月予定)、MSCI新興国市場入り(将来的)等を実現するためには、外国人投資家のアクセス改善が不可欠です。
2026年に入ってからの規制緩和議論、DVR(Depositary Voting Receipt・預託議決権証券)制度の検討等、FOL緩和に向けた構造的動きが見られます。ただし、銀行業等の戦略産業については、引き続き厳格な制限が維持される見通しです。
3. なぜ「FOL満杯銘柄」が生まれるのか?
FOL満杯のメカニズム
FOLが満杯になるのは、外国人投資家の需要が上限を超える銘柄に集中するためです。ベトナム経済の構造的成長性、特定企業の事業基盤の強さ、新興国市場への国際的な投資資金流入等が重なると、人気銘柄では外国人保有が上限まで埋まってしまいます。
FOL満杯になりやすい銘柄の特徴
- 大型優良株(時価総額大・流動性高)
- 国際的に認知度が高い企業
- ベトナム経済の成長性を象徴する銘柄
- 配当利回りが安定的に高い銘柄
- FTSE・MSCI等の指数構成銘柄候補
代表的なFOL満杯銘柄(構造的傾向)
2026年5月時点で、構造的にFOL満杯または満杯近辺で推移する傾向のある銘柄を整理します。具体的なFOL残余は日々変動するため、最新情報は各証券会社・公的情報源でご確認ください。
- VNM(Vinamilk・第14記事):ベトナム最大の乳業企業・中間層消費の象徴
- FPT(FPT Corporation・第12記事):ベトナム最大のIT企業・FOL満杯の常連
- VCB(Vietcombank・第9記事):国営最大商業銀行・銀行業FOL30%枠で満杯傾向
- MWG(Mobile World Investment・第11記事):小売最大手・成長性で注目
- HPG(Hoa Phat Group・第10記事):製鉄最大手・FTSE関連で注目
- PNJ(Phu Nhuan Jewelry・第20記事):宝飾最大手・中間層消費
(出典:各企業IR・SSC開示・2026年5月時点傾向)
FOL満杯の構造的意味
FOL満杯銘柄が多いことは、ベトナム株市場にとって「光と影」の両面を持っています。
光(プラス面):外国人投資家の需要が高い=ベトナム経済の成長性が国際的に認められている証拠
影(マイナス面):外国人投資家が買いたくても買えない=ベトナム経済への投資資金の受け入れに制約がある
4. FOL満杯時、何が起きるのか?
新規買い注文の不成立
FOLが満杯になると、外国人投資家からの新規買い注文は原則として成立しません。証券会社の取引画面で「現在お取扱いできません」「FOL残余なし」等の表示が出ることがあります。これは、日本の証券会社経由でベトナム株を取引する日本人投資家にとっても、直接的な影響があります。
プレミアム価格による取引(外国人投資家間取引)
FOL満杯銘柄を、それでも外国人投資家が取得したい場合、「外国人投資家間取引」(Foreign-to-Foreign Transaction)と呼ばれる市場で取引することがあります。この市場では、市場価格よりも20〜40%程度のプレミアム(上乗せ価格)が発生することが一般的です。
- 市場価格:100,000 VND/株
- 外国人投資家間取引価格(参考):120,000〜140,000 VND/株
- プレミアム率:20〜40%
(出典:各証券会社開示・ベトナム証券業界の慣行・2026年5月時点)
FOL残余の動的変化
FOLは固定された数字ではなく、日々変動します。外国人投資家の売却によってFOL残余が空けば、新たな買い注文が成立します。ただし、人気銘柄では「売却された瞬間に即座に埋まる」というケースも多く、実質的には常に満杯状態の銘柄もあります。
個別企業によるFOL自主設定
ベトナム法令上の上限(49%)よりも、企業が自主的に低い上限を設定するケースもあります。逆に、特定の手続きを経て、上限を100%まで緩和する企業も出てきています。これは、企業の戦略・株主構成・業種特性によって異なります。
5. 証券会社別のFOL対応はどう違うのか?
FOL満杯銘柄への対応は、日本の証券会社によって異なる傾向があります。これが、証券会社選びの構造的論点の一つになります。
SBI証券の傾向
SBI証券は、オンライン取引中心の運営のため、FOL満杯銘柄の取引対応は、システム的に制約される場合があります。「FOL満杯のため新規注文不可」という対応が一般的です。証券会社による特別な仲介サービスは限定的です。
アイザワ証券の傾向
アイザワ証券は、アジア新興国株の専門証券会社として、FOL満杯銘柄への対応力が比較的高い傾向があります。担当者制度を通じて、外国人投資家間取引の仲介、プレミアム価格での約定機会の提供等、柔軟な対応が可能な場合があります。ただし、プレミアム価格は通常の市場価格より高くなる点に注意が必要です。
楽天証券・マネックス証券の傾向
楽天証券・マネックス証券は、基本的にベトナム個別株の取扱がなく、ETF・投資信託中心のサービス展開です。そのため、FOL満杯論点に直接の影響は受けません。ただし、ベトナム株ETFも、構成銘柄のFOL状況の影響を間接的に受けることがあります。
証券会社別の詳細は、連載別記事「日本からベトナム株を買える証券会社4社徹底比較」(投資ガイド記事)で整理しています。
証券会社選びの構造的判断
「FOL満杯銘柄も含めて投資したい」という日本人投資家にとっては、アイザワ証券のような対応力のある証券会社が選択肢になります。「主要VN30銘柄を中心に、満杯時は他銘柄を検討」という方には、SBI証券の利便性が適している場合があります。
★大切な前置き:本記事は各証券会社の構造的特徴を客観的に整理したものです。特定の証券会社を推奨するものではありません。
6. FOL緩和の動きと今後の見通し
2026年現在のFOL緩和議論
ベトナム政府・ベトナム証券委員会(SSC)では、FOL制度の段階的緩和が継続的に議論されています。特に、FTSE Russell新興国市場昇格(2026年9月予定)に向けて、外国人投資家のアクセス改善が重要な政策課題となっています。
DVR(預託議決権証券)制度の検討
DVR(Depositary Voting Receipt)は、外国人投資家がFOL満杯銘柄に間接的に投資するための制度設計の一つです。原株式の議決権を制限した「預託証券」を発行することで、外国人投資家の資金流入を可能にしつつ、FOL制度の本来の目的(国家戦略産業の保護)を維持する仕組みです。
2026年5月時点では、DVR制度はまだ正式導入されていませんが、制度設計の議論は継続しています。
業種別の緩和方針
- 銀行業:30%上限の維持または小幅引き上げ議論(慎重姿勢)
- 一般業種:49%上限の見直し・個別企業の自主緩和促進
- 戦略産業(通信・運輸・エネルギー):従来の制限維持
(出典:SSC公表・各種報道・2026年5月時点)
FTSE昇格との連動性
FTSE Russellによる新興国市場昇格(2026年9月予定)は、ベトナム株式市場に大規模な外国人投資資金流入をもたらす可能性があります。この際、FOL満杯銘柄では、プレミアム価格上昇・取引機会の制約等、構造的な論点が再び表面化する可能性があります。
ただし、「FTSE昇格=FOL緩和」ではありません。FTSE昇格は外部評価による格付けであり、FOL制度はベトナム国内法令によるものです。両者は連動性はあるものの、別個の制度です。
7. 日本人投資家の構造理解・5つのポイント
ポイント1:FOLはベトナム株式市場の構造的特徴
FOLは、ベトナム株式市場特有の制度であり、日本株市場の感覚では理解しにくい論点です。「買いたい時に買えない」という現象は、構造的に発生し得るものです。「ベトナム株は買いにくい」と捉えるのではなく、「ベトナム経済の構造的特徴」として理解することが、第一歩です。
ポイント2:銀行業30%・一般業49%が基本
FOL率の基本は、銀行業30%・一般業49%です。VCB(国営最大商業銀行・FOL30%)、VPB・TCB・MBB・ACB(民間銀行・FOL30%)等は構造的にFOLが厳格です。VIC・VHM・VNM・FPT・MWG等(一般業・FOL49%)は、銀行業より緩いものの、人気銘柄では満杯傾向です。
ポイント3:FOL満杯時のプレミアム価格を理解する
FOL満杯銘柄を外国人投資家間取引で取得する場合、20〜40%のプレミアムが発生することがあります。これは、長期投資のリターンを考えるうえで、重要なコスト要因です。「市場価格で安く買える時に買う」という基本姿勢が、構造的に重要です。
ポイント4:証券会社選びの構造的判断
FOL満杯銘柄への対応力は、証券会社によって異なります。「FOL満杯銘柄も含めて取引したい」という投資方針なら、アイザワ証券等の対応力のある証券会社が選択肢になります。詳細は、連載別記事「日本からベトナム株を買える証券会社4社徹底比較」をご覧ください。
ポイント5:★最重要──FOLは「制約」であり「機会」でもある
本記事の中で、最も強調しておきたいのが、この第5ポイントです。
FOLは、日本人投資家にとって「制約」(買えない、プレミアム発生)である一方、ベトナム経済にとっては「保護機能」(国家戦略産業の保護、経済安定性確保)としての役割を持ちます。
長期的には、FOL緩和の方向性が政策的に維持されており、DVR制度等の新たな仕組みも検討されています。FTSE昇格(2026年9月予定)も、FOL論点に間接的な影響を与える可能性があります。
FOLを「単なる制約」として捉えるのではなく、「ベトナム経済の構造的特徴であり、長期的には変化していく制度」として理解することが、ベトナム株投資の構造的理解に必要だと、── 私はそう思います。
8. 編集員リンの観察
ハノイで生まれ育ち、ベトナム証券業界で3年間働いた経験から、FOLについてお話しします。
ベトナムで証券会社の窓口に立っていた頃、外国人投資家の方から「なぜ私はこの株を買えないのか?」というご質問を受けたことが、何度もありました。日本・韓国・シンガポール・米国の投資家の方々が、ベトナムの主要企業に投資したいと考えてベトナムを訪れる──そして、FOL満杯という制度的制約に直面する。
「VNM(Vinamilk)を買いたい」「FPT(FPT Corporation)に投資したい」「VCB(Vietcombank)の株主になりたい」──これらはどれも、ベトナム経済の成長性を象徴する銘柄です。外国人投資家から見れば、当然の投資対象です。しかし、FOL制度のために、すぐには買えないこともある。
これを「投資家として残念」と感じる方もいれば、「ベトナム経済の保護機能として理解できる」と感じる方もいます。私は、両方の感覚が同時に存在することが大切だと思っています。
FOLは、ベトナム経済の発展段階を反映する制度です。経済の成熟、国際金融市場との統合、国内資本市場の発展──これらが進むにつれて、FOL制度も段階的に緩和される方向性にあります。FTSE昇格(2026年9月予定)、DVR制度の検討、業種別緩和議論──いずれもこの方向性の一部です。
ただし、急激な緩和は経済不安定化のリスクを伴います。ベトナム政府が「段階的緩和」を選択している背景には、こうした構造的判断があります。新興国の資本市場発展の歴史(中国・インド・韓国等の事例)を見ても、FOL類似制度の緩和は、数十年単位の長期プロセスです。
FOLという制度を理解することは、ベトナム株式市場を理解することの本質的な一部です。「買えない時もある」「プレミアムが発生する」という現象を、単なる不便さとして受け止めるのではなく、ベトナム経済の構造的特徴として理解する──これが、長期投資家としての姿勢だと、私は考えています。
派手な売買推奨はしません。私たちの仕事は、こうした構造的論点を「光と影」の両面から、誠実にお届けすることです。
── リン
9. まとめ
本記事では、ベトナム株式市場のFOL(外国人保有上限)について、構造的に整理してきました。
ポイントを整理すると、以下のとおりです。
- FOLはベトナム株式市場特有の外国人保有上限制度
- 銀行業30%・一般業49%が基本(2026年5月時点)
- FOL満杯銘柄(VNM・FPT・VCB等)では新規買い注文が成立しない
- 外国人投資家間取引では20〜40%のプレミアムが発生
- 証券会社による対応の柔軟性は異なる(アイザワ証券等が対応力高い傾向)
- FTSE昇格(2026年9月予定)・DVR制度検討・段階的緩和議論が進行中
- FOLは「制約」であり同時に「ベトナム経済の保護機能」
- 長期的には段階的緩和の方向性
そして、最も大切な認識として、FOLはベトナム経済の構造的特徴であり、単なる不便さではなく、新興国資本市場の発展段階を反映する制度です。日本人投資家にとっては、ベトナム株投資の構造的理解の重要な一部となります。
本記事の内容は、2026年5月時点の制度・市場情報に基づきます。FOL状況は日々変動し、政策・規制も継続的に変更される可能性があります。最新情報は、各証券会社・ベトナム証券委員会(SSC)・公的情報源でご確認ください。
投資判断は、ご自身の投資方針・リスク許容度等を総合的に検討して、ご自身の責任において行ってください。
ハノイから、また次の記事でお会いしましょう。
関連記事──ベトナム資産形成研究所の連載
本記事は、ベトナム資産形成研究所の「投資ガイドカテゴリ」のハブ記事です。連載別記事と合わせてお読みいただくと、ベトナム株市場の構造的理解がさらに深まります。
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- 第8記事「VHM・Vinhomesの構造を読み解く」(住宅不動産・FOL49%)
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- 第10記事「HPG・Hoa Phat Groupの構造を読み解く」(製鉄最大手・FOL49%)
- 第11記事「MWG・Mobile World Investmentの構造を読み解く」(小売・FOL49%)
- 第12記事「FPT Corporationの構造を読み解く」(IT最大手・FOL満杯の常連)
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- 第17記事「ベトナム株ETF・投資信託の選び方」(間接投資)
──ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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──ベトナム資産形成研究所・編集部
(執筆:リン)
2026年5月17日

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